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第十一回「献杯!」
暖かい日が続くようになり、今回の切手が「明治神宮鎮座」記念の切手というのもあって、東京都民にも関わらず明治神宮へ行ったことがない友人のトモコを誘って参拝することになった。最近の仕事の調子はどう? だとか、彼氏とはうまくいってる? なんて近況報告をしながら鳥居をくぐり、境内を散策していると、左手に大きなワイン樽、右手に日本酒の樽がずらりと並んだ光景が現れた。案内板によると、ワインをよく嗜んでいた明治天皇へ、フランス・ブルゴーニュ地方のワイン醸造元各社から奉納された酒樽らしい。
「ちょっと花! これって有名なロマネ・コンティじゃない?」
お酒が好きなトモコは熱心にラベルを読み、おいしそうだとか、担いで持って行きたいと呟いている。アルコールが飲めない私には何にも興味がわかなかったが、なるほど神社にワインというのは面白い組み合わせだよなぁ、などとのんびりその様子を眺めていた。
ワイン調べを切り上げて、てくてくと歩きはじめると、彼女はしみじみと言った。
「私さ、明治天皇と仲良くなれるかも知れない。」
「えっ!? なんで急に?」
突然の「明治天皇とお友達になれる」発言に驚いていると、早口で彼女は続けた。
「私もワインとかお酒好きだし。それにほら、あれ、オーストリアで見たじゃない!」
大学一年の時、一緒に行ったオーストリア旅行の場面が次々と思い出される。ウィーン…明治天皇…? ああ! あれだ!
『カニ!!!』
ふたりで声が揃い、思わず笑ってしまう。
カニ、というのは正確にはタカアシガニであり、明治天皇がハプスブルクの大帝フランツ・ヨーゼフⅠ世に贈ったものである。これは現在、オーストリア首都ウィーンにある、世界一多くの剥製を有する自然史博物館に展示されている。当時、私達は美しい彫刻が施された博物館の踊り場に仰々しく飾られた巨大なカニに驚き、更にそれが日本から送られたものというのに二度驚かされたのだった。
「カニとワイン、私もどっちも好きだから!」
「いやぁ、別に明治天皇はカニが好きだったわけじゃないと思うけど。」
トモコに呆れたように反論しながら、内心で(カニもお酒も嫌いだから、私は明治天皇とは友達になれないなぁ。あ、でも大正天皇がいるし!)と同レベルのことを思い浮かべていた。一般的に明治天皇といえば、「帝国主義を指揮した強き君主!」とか、「明治維新と近代化を押進めた大帝」といったイメージで語られるにも関わらず、私達の中ではすっかり「カニとワインの明治天皇」という、美味しそうなイメージが出来上がっていた。
参拝を終え、帰宅してからもこの会話が妙におかしく思い出されたので、明治天皇の業績ではなく、人柄やどんな好みを持っていた人なのかを調べてみた。すると、カニ・ワインにつぐ新たなキーワードが見つかった。なんと「牛肉」である。
明治天皇が、文明開化や明治維新と言った言葉で象徴されるとおり、彼は西洋文化を自ら率先して取り入れ、国民に啓蒙していった。中でも断髪、洋装に次いで重要であったものこそ、食事の西洋化であった。古来より日本で肉食は忌避されてきたが、欧米の肉食文化に対しこの偏見を改めると同時に、「富国強兵」のためにも、積極的に肉食・西洋料理を進めていこうとされた。1872年1月24日には「明治天皇が初めて牛肉を食された日」という記録も残っている。それ以後東京では牛なべ屋や西洋料理店が流行し、肉食は一般へと広がったのである。余談だが、右大臣の岩倉具視は部下に西洋料理店を開業させ、それが今の「精養軒」だそうだ。
ドイツでは、食糧難を防ぐためにじゃがいもをドイツにもたらしたフリードリヒ大王に対し、毎年人々が感謝と親しみの気持ちを込めて、お墓に花束ではなくじゃがいもを置いていくらしい。さすがに明治神宮に牛肉を持っていくわけにいかないが、日本の食の近代化に身をもって貢献した明治天皇と、一緒に食事をしてみたいと思う。料理はもちろん、ワインと牛肉と、カニに決まっている。
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大正9年11月1日発行 明治神宮鎮座記念
明治45年7月30日に明治天皇、大正3年4月11日に昭憲皇太后が崩御。彼らを永遠に敬い、慕いたいという国民の思いから、縁の地である代々木に鎮座された明治神宮を記念して発行された。
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